ご出身はどちらですか?
洛友会会報 200号


ご出身はどちらですか?

細田順弘 (昭和40年卒)

 ある講演会の後の,立食パーティの席で。
 「初めまして,Aと申します。M社に勤めております。よろしくお願いします。」
 「Bと申します。N社に勤めております。こちらこそよろしくお願いします。」
 「きょうの講演は面白かったですねー。日本の規制がタマネギだなんて,うまくたとえたもんですよ。」
 「法律,政省令から始まり,内規,行政指導まで七段階をタマネギに例えてましたね。講演者の憤慨ぶりがよく出てましたよ。」
 と,きょうの講演会の話が二つ三つ続くと,話がとぎれます。そこでA氏は,B氏のコップにビールをつぎながら,話題を変えて,
 「ところで,急に暖かくなってきましたねー。この調子じゃ平和公園の桜も早く咲きそうですよ。」
 「あ,どうも。しかし平和公園もですが,うちの桜も早く咲いてほしいですよ。」
 「えっ?」
 「いや実は,去年も咲かなかったんですよ,『サクラチル』でね。が,今年はぜひと思っているんですよ。」
 「大学受験ですか。たいへんですねー。」と,いっとき子供の受験の話になる。
 初対面の人が,こうしてお互いがあまり差し障りのない話から職業やプライベートまでいろんな話題を交わしながら親しくなって行く,というのが立食パーティである。

 こういう時によく出てくるのが,「ご出身はどちらですか?」という質問である。聞く方にしてみれば,話の接ぎ穂になにげなく聞いただけ,あるいは会話をしているうちに相手と自分との共通の接点を見つけてより親しみを覚えて聞いた,そんなところだろう。したがって,質問の中身をそんなに深く考えずに聞いている場合が多い。
 一方,質問はきわめて簡明でありながら,聞かれている内容にはさまざまなものが含まれている。
 「お生まれはどちらですか?」「本籍はどちらですか?」「ご先祖はもともとどちらですか?」「ご両親はどちらにお住まいですか?」「郷里はどちらですか?」と,いろんな内容がある。それらの全部をひっくるめたおおざっぱな感じで聞いている人もある。言葉の訛りを聞きとがめて出身を聞いたという人もある。気軽に聞く人は,多分,生まれも本籍もご先祖も一緒なんだろうと思う。
 洛友会の皆さんは,生まれや本籍と現住所の異なる「全国区」で活躍されておられる方が多く,出身を問われると少し考えてから答える,という人が多いのではなかろうか。私の場合もまさにそれで,生まれは大阪,本籍は岡山,ご先祖は聞いているところでは奈良,両親は今はもういないが私といっしょに住んでいたところは兵庫,と全部違う。だから,単に『出身』を聞かれても,それによって何を聞きたいのか,何を知りたいのか,を確かめなくては答ができない。
 そこで,私が出身地をきかれた場合は,「出身地をお尋ねですが,私の場合は『出身』の定義次第でいろいろな答えがありますので,まず,『出身』の定義をお教えください。」と反問することとなる。そういうことを質問者に質問すると,出身を何気なく聞いた人も,自分は本当は何を聞きたくて出身を尋ねたかを初めて考えるようである。中にはめんどくさくなって,「とにかく一番長いこと過ごした土地のことですよ。」と無責任なことを言う人もいる。こうなると私の場合,広島であり,またまた違った答になるので困るのである
 これまでの経験から言えば,いろんな人がいろんな答をするが,だいたいすでに述べたような『出身』の定義の範囲内にあるようである。しかし,よーく考えた末にでてきた答はほとんど,「現在の人格をかたちづくった青春時代,つまり小中学校を過ごした土地」という答のようだ。
 さて,皆さんの場合はどうでしょうか。

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