今世紀のエネルギー
 について(V)
洛友会会報 205号


今世紀のエネルギーについて(V)

前川則夫(昭36年卒)

1.前回までに温暖化問題や世界各国のエネルギー安定確保の取り組み状況などについて解説した。本稿では我が国の資源確保やエネルギー効率向上へ向けた取り組み状況などを紹介するとともに、京都議定書で地球温暖化防止のために掲げた目標値を超えて増え続ける化石燃料の使用、炭酸ガスの放出量に着目しながら議定書の問題点を解説する。

2.(日本がエネルギー資源を依存している国々)
 資源小国日本も石炭をエネルギーの重要な選択肢に加え、石油・天然ガスなどの化石燃料及びウラン燃料を基幹エネルギーとしてエネルギーの安定確保に努めている。輸入先を見れば石炭はオーストラリア約60%、次いで中国、インドネシア、カナダ、石油はアラブ首長国連邦、サウジアラビア、イラン等アラブ諸国が約87%を占めている。液化天然ガス(LNG)はインドネシア約33%、次いでマレーシア、オーストラリア、ウランについてはカナダ、オーストラリアなどとなっている。

3.(原油価格の変動)
 石油は73年の中東戦争の勃発とともに、アラブ産油諸国は石油を武器として原油価格の引き上げとイスラエル支援国への禁輸などを行った。原油価格はバレル3ドルから11.6ドルに高騰し価格支配力はOPECに移り、さらに79年のイラン、イラク戦争によって34ドルまで高騰した。このため、非OPEC諸国は北海油田などの原油生産を増大させ、同時に、石炭・天然ガス・原子力へシフトさせた結果、逆に原油価格は10ドル台の低迷が続いてきた。しかしながら、ここ数年は小幅な変動を繰り返しながら上昇を続け、中国等の著しい発展を背景として40ドルをうかがう展開になっている。長期的に見れば石炭、石油価格は強含みの展開になると思われる。

4.(資源確保の外交)
 石油は2010〜30年の間に生産のピークを迎えるリスクがあり、日本はアラブ諸国に87%も依存していることから安定確保の取り組みが強く求められている。
@日本は最大級の自主開発油田であるサウジアラビアのカフジ油田で石油権益を失ったが、その後イラン・アザデガン油田(確認埋蔵量260億バレル)の権益確保に取り組んできた。イランが核疑惑を解明するまで開発計画の調印を延期すべきとの米国の立場に配意しながらも、ようやく04・2月に開発の基本合意に達した。
Aまた、03年、日本政府はリビアへの経済援助を始めようとしている。リビア原油の産出量は130万バレル。国連制裁以来開発投資が滞り、70年代の330万バレルから激減していた。イラン、リビアに欧州各国、中国は熱い視線を送っている。
B目下進められているロシアとの間では年間石油輸送能力5000万トンのバイカル湖南端のアンガルスクからナホトカへのルートの建設問題があり、サハリン沖の石油・天然ガス開発事業は日本国内需要家向けに07年から供給が始まる予定である。

5.(深海油田の開発)
 世界に目を向けると欧米石油資本がメキシコ湾や西アフリカ等で深海油田の開発を加速している。原油高や技術革新で、コストの割高だった深海油田の開発が採算に合ってきている。深海油田は水深450m以上の海底にある油田を指すが、最近では1500m以上の超深海油田の開発も増えている。現在の深海油田の生産は日量約400万バレル、07年にはサウジの日量に相当する800万バレルになるとの推計もある。

6.(天然ガス需要の増大)
 世界の液化天然ガス(LNG)の消費量は年間約1億2000万トン。世界のエネルギー消費の数%に過ぎないが今後10年間で倍増する見通し。LNGの最大消費国は日本であるが、今後需要増が予想されるのが中国と米国。LNG生産設備の新設・増設計画は目白押し。中東、インドネシア、ナイジェリア、アンゴラ、ロシア・サハリン等。現在、世界の天然ガス市場は産地から気体のまま送るパイプライン方式が主流だが、需要拡大に備え、米国や中国ではLNGの受入基地の整備計画も進んでいる。

7.(メタンハイドレートの開発)
@経済産業省は03年度、海底に大量に埋蔵し、未来の国産エネルギーと期待されているメタンハイドレートを日本近海で掘削する研究に乗り出している。本州沿岸、東海沖から熊野灘にかけて南海トラフの深さ700〜2000mの海域。メタンハイドレートのサンプルを採取して、その状態を出来るだけ維持して地上まで運ぶ。13年後の実用化を目指しているとのこと。
Aメタンハイドレートは天然ガスの主成分のメタン分子を水分子が取り囲む氷状の固体。本州近海の埋蔵量は国内天然ガス消費量の100年分(7.4兆?)、石油換算68億トンとの試算もある。200気圧深海での掘削し、低温で引き上げる技術開発がキー。メタンガス燃焼による温室効果は石炭の半分、石油の4分の3程度。ただし、メタンガス自体は炭酸ガスの20〜50倍の温室ガス効果を持つ。

8.(超重質油の実用化研究)
 超重質油は南米やロシアに広く分布しており、確認された埋蔵量は約1兆バレル。石油に匹敵する。日本国内でも研究が進められている。高温高圧の超臨界水の密度を最適に制御することで分子間結合を分解し、粘度を低減、硫黄もA重油クラスまで除去出来るという。

9.(エネルギー利用効率の向上)
 エネルギー利用効率の尺度の一つに「一次エネルギー総供給の対GDPの原単位」という指標がある。1億円のGDPを創出するのに、原油換算でどれだけエネルギーを消費したかを示す指標。日本は73年のオイルショック時に比べて35%もの改善がなされ、1人当たりの消費量でも85%程度の水準になっており、先進各国に比べて我が国のエネルギー利用効率は極めて高い水準にある。

10.(化石燃料の新しい効率的な利用形態)
@日本ではエネルギー回生型ハイブリッド自動車が実用化されている。日経エコロジーによればガソリン車は新型でも総合効率は14%程度、しかしながら、エネルギーを回生利用するハイブリッド車は総合効率32%、燃料電池車29%程度にエネルギー利用効率が高められてきているという。
A一方、欧州では軽油で駆動可能で、ガソリン車より熱効率が高く、石油を効率よく使用出来るディーゼル車を環境にやさしい車として開発している。
B定置型燃料電池については1kw程度の発電と排熱利用を併用する装置の開発競争が行われている。エネルギー総合効率80%程度が目標という。
C火力発電所の熱効率の推移を見ると、1950〜65年代の熱効率は30%程度。最近は平均で40数%。ガスタービン併用型発電所では熱効率55〜60%の達成を目指して開発が進められている。
D素材のリサイクル。アルミ缶のリサイクル率は83%程度。アルミ缶から再生地金を作るエネルギーはボーキサイトから作る時に必要なエネルギーの10分の1以下という。また、年間5000万トンにも上るスクラップ鉄を電炉で溶かし、新しい技術を用いればエネルギー消費は9分の1程度になるという。

11.(社会インフラとエネルギー消費)
 1トンの貨物を1q運ぶのに消費するエネルギーは、鉄道を100として比較すると、海運が358、自動車は1412となる。また、一人を1km運ぶのに消費するエネルギーは、鉄道を100として比較すると、バスが323、海運956、乗用車1177となる。日本ではエネルギー消費の4分の1が運輸部門であり、ドアからドアの便益を忍べばエネルギーが大量に節減出来る。エネルギー消費と炭酸ガスの放出量の少ないインフラの構築が今世紀の重要な課題となろう。

12.(資源問題の重要性)
 これまでに述べたように石油は2010年から30年の間に生産のピークを迎える可能性があると言われている。我が国の石油依存度は約50%.中国の石油需要の急増、アラブ諸国など供給国での権益の争奪、深海へ進む石油、ガスの掘削地点、石炭など化石燃料起源の水素利用推進を掲げる米国の石油代替政策などを概観すると資源確保、エネルギーの安全保障への取り組み強化が一層求められるであろう。

13.(温暖化防止の為の京都議定書)
 CO2排出量の抑制をめざす京都会議では先進各国が08年から12年の間に90年比5%削減、日本は6%削減する議定書を取りまとめた。議定書は批准国の排出量合計が参加国全体の55%に達した時効力を発生することになっている、参加国のなかで大きなシェアを持つ米国、ロシアが批准せず、発効にいたっていない。

14.(京都議定書の問題点)
@03年、ミラノで開催されたCOP9の温暖化防止条約事務局の推計によれば、炭酸ガスは世界全体で90年比00年13%、10年30%、30年90%増と予想されている。京都議定書の最大の問題点は世界の化石燃料使用量の著しい増加が議定書に参加した先進国ではなく、発展途上国によって引き起こされていることである。議定書参加国は先進国に限定されており、参加諸国の排出量をたし合わせても00年で世界全体の30%程度にしかならない。00年における世界の炭酸ガス排出量を国別に見れば米国24%、中国13%、ロシア6%、日本5%、ドイツ3%などである。このうち米国、中国が参加せず、3位のロシアも批准を見合わせている。米国は科学的に完全に実証されたとはいえない、排出削減義務を負わせられると経済面で大きな犠牲を強いられるとしている。
A先進国の10年時点の排出量予測は全体で90年比10.2%増、国別では米国32.4%増、日本は5.7%増などであり、京都宣言で目標とした先進国全体で90年比5%減には程遠いのが実情である。
B京都議定書目標を達成するために必要なコストを比較すると米・欧・日本の比率は2・3・4になるという。ドイツや英国は老朽化した石炭火力を改良するだけで排出量を大幅に削減出来る。さらに、東西ドイツの合併効果や英国の北海油田からの天然ガスの導入など、好条件をいれるとコストはこれ以上の開きとなり、日本の不利は明白。欧州主要国のCO?削減状況をみると、ドイツは20%、英国は12%という大幅な削減を実現しているのに対して、日本は様々な努力にもかかわらず8%増になっている事情がこれを裏付けている。
C従って、京都議定書が発効し、先進諸国が目標を達成したとしても、中国など先進国の仲間入りを急ぐ国々の影響の方が大きく、温暖化速度を多少遅らせる程度の効果しか持たないのが現実であり、国際社会の利害を越えた対応が求められている。

 (次号に続く)



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