自転車と北海道と私
洛友会会報 205号


自転車と北海道と私

石川元也(平9年卒)

 毎年、夏になると北海道には旅行者がたくさん来る。その中でもバイクを移動手段とした旅行者はライダーと呼ばれ、自転車を移動手段とした旅行者はチャリダーと呼ばれ、徒歩を移動手段とした旅行者はトホダーと呼ばれている。学生時代、私は某非公認サークルに所属し、チャリダーとなって北海道各地を回り、合計4回訪れた。ほとんどの場所に行き、行っていない主要都市は室蘭ぐらいである。自転車での移動距離は団体行動の場合、一日で40km〜70q程度で、一人の場合は100km程度である。ゆっくりと動いていく景色を楽しみながら移動をし、観光をした。よく、「自転車でしんどくない?」と聞かれたが、風景の連続性と開放感は車では味わえないものだと思った。それでも、雨の日はやっぱりしんどく、個人行動のときには、全く移動しない日もあった。
 敦賀まで走って、そこからフェリーに乗り、小樽に上陸するのが毎年のパターンであった。毎回、小樽から自転車をばらして電車に乗せ、目的地周辺まで移動していた。最初に電車から降り立ったのは遠軽であった。道路の広さや町並みの寂れ方は本州にはないものだと思った。サロマ湖畔のキャンプ場でテントを張って泊まった。翌朝、朝食を狐に奪われている人がいた。都会でなくても盗人がいることを学んだ。移動途中に山があれば登山もした。最も感動したのは利尻富士であり、高山植物が斜面にびっしり花を咲かせる様と宗谷岬、サロベツ原野が見渡せる景色は言葉では言い表せない美しさであった。
 夏が終わり試験期間に入っても勉強に身が入らないのは言うまでもなく、次回はどこに行こうかとばかり考えていた。
 もともと東京が嫌いで東大を受験せず、京大に入学したのだが、さらに田舎はないか、ずっと東京に住むことがない就職先はないか、という思いが頭の片隅にあった。ピンと来たのが今の会社だった。
 入社してまず道東の中標津というところに配属された。札幌から車で7時間もかかるところで、京都からだったら、東京まで行けてしまうような距離である。学生時代に自転車で訪れていた場所であり、空港もあって意外と都会であることを知っていたので,さほど落胆はしなかった。しかし、最初は冬の生活がどんなものか想像できず、寮が寒くて凍えるのではないかと心配した。与えられた部屋は畜熱暖房器が備え付けられた狭い部屋であり、非常に暑かった。全く寒さの心配がいらなかった。そこで2年間過ごした。また、学生のときに回れなかった裏摩周には自転車で行き、羅臼岳登山もでき、幸運だった。
 その後、音更(おとふけ)という帯広のすぐそばにある事務所へ転勤となり、同時に学生時代から付き合っていた女性(姫路の近くの人)と結婚した。広くて古い社宅があたり、このときは寒かった。妻と二人で寄り添って寝た。畜熱暖房器はなく、煙突式の石油ストーブを買った。初めて夜でもストーブを消さないで寝た。妻との共通の趣味は温泉めぐりで音更はまわりにたくさんの温泉があり、非常によい場所であった。中でもお気に入りは士幌温泉で、泉質・香りとも抜群に素晴らしいお湯であった。週末ごとに温泉に行っていた。
 その後、旭川へ転勤となり、音更よりも都会に住むこととなった。北海道第2の都市とはいえ,たいして大きくない市である。中心部から30分も車でいけば郊外に出られる。北海道の地図で見ると層雲峡が近くに思えるが、意外と遠く、車で1時間程度かかってしまう。もう一度温泉三昧するつもりであったが、なかなかそうはいかなかった。よく行ったのは深川の温泉である。あまり温泉らしいお湯ではないが、体が温まるいいお湯であった。
 旭川であたった社宅は鉄筋で暖かかったが、狭かった。それまで使っていたダイニングテーブルとこたつは物置の中に安置された。1年で札幌に転勤となり、ダイニングテーブルだけは日の目を見ることができた。転勤3回目で慣れているとはいえ、出産と転勤が重なったのは大変だった。
 妻は雪国で暮らしたことがなく、積雪を心配していたが、一冬越えれば車の運転も、除雪もなれたものである。むしろ雪と戯れることを楽しみとしてくれて、つれてきた甲斐があったと思う。
 学生時代に乗っていた自転車に今でも乗ることがある。現在の社宅から事務所までは15kmほど離れているが、先日ためしに自転車で通ってみた。片道50分もかかり、いい運動になることは間違いないが、さすがに都会で乗ると排気ガスと信号の多さが気になってしまう。それからは電車を一駅前で降りて歩くこととした。すっかり学生のころより体力が衰えてしまったが、運動を継続し、体力を維持していきたいものである。現在のところ乗る機会は少ないが、子どもと一緒に自転車に乗られる時が来るのが楽しみである。
 今年、北海道支部には私以来の会員がやってきた。彼もまた、北海道の魅力にひかれこの地にやってきたという。建物が冬の寒さに対応したものがほとんどであり、冬の寒さはたいして気にならないので、水と空気と食べ物がおいしく、梅雨がない北海道に住むことを会員のみなさまにお勧めしたい。

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