超電導リニアの現状と今後
洛友会会報 205号


超電導リニアの現状と今後

藤江恂治(昭37年卒)

1.はじめに
 超電導リニアは研究開始から36年経過し、国として国土交通省の運輸技術審議会鉄道部会超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会(平成9年1月設置:筆者は特別委員)が平成17年3月末に実用技術の最終評価をし、実用化へ向けての技術的な方向性を出すことになっています。
 一昨年、長尾総長(当時)を山梨実験センターにご案内して超電導リニアにご試乗いていただいたとき、その最先端総合技術の高さをご評価いただきました。また、樋口廣太郎氏や豊田章一郎氏ほか、多くの方々から実用技術の完成度の高さをご評価いただき、研究開発当初から関わってきたものとして感激しています。

2.山梨実験線の現状
 超電導リニアの研究開発は昭和43年から始まり、旧国鉄鉄道技研での超電導基礎実験、実験車の浮上、推進、案内試験、宮崎実験線でのML500、MLU001、MLU002、MLU002N実験を経て、現在、JR中央線大月駅近くの山梨実験線でMLX01による実用化走行実験が行われています。
 実験線(先行区間)は総延長:18.4q、トンネル区間:16.0q、明かり区間:2.4q、複線(中央区間)、最急勾配:4%、最小曲率半径:8,000mとなっており、5月末現在最高速度:581q/h、すれ違い最高相対速度:1,003km/h、延べ走行距離:369,813km、一日最高走行距離:2,876q、延べ試乗者数:72,581人となっています。(JR東海)
 車両は3両編成、4両編成の7両あり、5両編成実験も完了しています。電力変換変電所では車両の駆動電力を変換し、南線、北線用にインバータ設備が2セットあります。ガイドウェイはU字型で側壁に推進コイルと浮上案内コイルが、走行路面にき電ケーブル、電力・情報ケーブル、交差誘導線が設置され、乗降場と検修庫にトラバーサ式分岐装置があります。乗降場はホームを屋内化したホールホーム構造で磁気シールドを兼ねた乗降装置を通って試乗者は車内に入り超電導リニアでしか実現できない時速500キロを体験します。

3.超電導リニアの基本技術
 基本技術は@超電導磁石、A地上コイル、B電力変換装置、C車上電源です。車両を推進するリニアシンクロナスモータは@、A、Bでシステム構成され、車体を支持案内するのは@、Aによる誘導反発浮上・案内システムです。冷凍装置用や車内サービス用電力を供給するCは、@とAを組み合わせた誘導集電システムを採用しています。
 @の課題はクェンチ(急激に磁界が消滅する)現象ですが、ほぼ完全にクリアした状態ですので、今後は高温超電導による実用レベルの磁石開発が急がれます。高温超電導が実用化されますと飛躍的に冷凍効率向上するとともに、仮にクェンチが起こっても急激な磁場減少がないため、ガイドウェイに与える衝撃も緩和され設計基準の大幅改善余地が生じ、コストダウンに繋がります。
 Aは所謂ローテクですが、東京・大阪間複線で推進用と浮上・案内用でざっと200万個〜400万個程度が必要になるため、徹底したコストダウンを図る必要があります。筆者(ほか2名)が発明したPLG(P:推進、L:浮上、G:案内)コイルは浮上・案内コイルに推進機能を付加したもので、数量半減によりコストは大幅に改善されます。反面、ヌルフラックス線(案内用左右コイル接続線)に高圧がかかると言う問題があり、山梨実験線(宮崎では性能確認すみ)で検証がなされているところです。
 Bは0〜60数ヘルツのVVVF(可変電圧、可変周波数)インバータで20MWクラスの変換装置が山梨では開発設置されています。
 松波京大名誉教授(昭37年卒)が長年研究され、国内外で質の高い業績を残されているSiC(シリコンカーバイト)は、究極(シリコンに対し、高温化:3倍、高耐圧化:10倍、低損失化1/100倍、高速化10倍・・関電電力技術研究所資料より)の電力変換素子と言われていますので、早期の商業ベース開発が実現されれば、長大トンネルや地下電力変換所がコンパクトに建設できるだけでなく、一般産業への波及効果も絶大と思います。
 Cの誘導集電の課題は停車中には電力が得られないため、補完的に二次電池が必須となります。実験線では取りあえずガスタービン発電機も搭載しています。
現在、自動車用として開発されている燃料電池(発電装置)がリニアに搭載可能になりますと、システムが大幅に単純化されます。燃料の水素を高圧にする必要はありますが、高温超電導が車上に搭載可能な実用段階になれば、コイル冷却後の水素を燃料に使用可能になるかも知れません。

4.おわりに
 超電導リニア実用化のためには、更なるコストダウン開発はもとより、世界最先端の新技術を導入することが急務であり、積極的に研究開発を進めることが大切と思います。これからのエネルギー活用産業は産官学連携リスクを共有して新商品を開発し、世界経済をリードしていくことではないかと思っています。  
 我々、電気関係研究者技術者は、絶えず最先端技術に目を向け、長年培われた夫々の知的財産を活用していくことが、(我田引水ですが)リニアを戦略的に実用化させる早道と考えています。
(平15年度東京支部長)

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