最初のご講演は、田邊輝義氏(昭和44年卒、株式会社ビスキャス代表取締役社長)による「固体絶縁超高圧ケーブルの開発沿革と今日の事業課題」でした。ご講演の冒頭、ビスキャスという会社の社名の由来(ラテン語のPowerを表すVISとCable and System)と生い立ち(古河電工とフジクラの融合)についてご紹介いただきました。ご講演では、50万ボルト地中送電のための超高圧ケーブルがいかにして開発されたかを分かりやすくお話いただきました。感銘したのはケーブル絶縁体中のμmの不純物の存在を丹念に調べては除去することで、はじめて50万ボルト用のケーブルができるというお話でした。「μmを制してM(メガ)を実現する」という合言葉のもと開発されたということです。現場でクリーンルームを作り100トンあるケーブルを接合していくというお話には驚嘆するばかりでした。商業レベルでこのケーブルが製造できるのは、現在は日本だけとのことです。これからの事業課題としては、市場が海外に移るとともに、日本におけるプロジェクトが減り、そのため若い世代の経験が減ることで、トラブルが起こったときの対策が問題になってくるとのお話でした。
2番目のご講演は松田晃一氏(昭和43年卒、NTTアドバンステクノロジ株式会社代表取締役常務)による「情報システムの研究開発、今と昔」でした。コンピュータシステムの高信頼化の実現に関するこれまでの研究開発についてお話いただきました。入社当時、電電公社(当時)の国産最高速計算機システム(Denden Information Processing System, DIPS)の開発途上で、その研究開発に参加されたそうですが、故障率の高さが問題になっていたそうです。全く故障しない計算機の実現は現実的には無理なことから、ホットスタンバイという、複数の計算機を利用する方法をご考案になり、利用者に故障を感じさせないシステム(ノーダウンシステム)を作ることで、信頼性を1桁上げたことなどをご紹介いただきました。最近は大型のメインフレームは時代遅れになり、クライアントサーバ型に移行しており、ダウンサイジングが進んでいること、単一ベンダ型から複数ベンダ型になりつつあることなどをご説明頂きました。また、現在の課題についてもご説明くださいました。その中で、これからの研究開発で重要なのは「人材・経験」であるとのメッセージを頂いたのは、1番目の田邊氏がご講演の最後にお話になられた「経験の不足という問題」とも相通ずるお話だったかと思います。