会員の寄稿(2)  
洛友会会報 211号


就職先を決めるということ

加藤 徹(昭和58年年卒)

 現在私はなぜか人事部に所属し、採用担当の仕事をする羽目になっている。洛友会の会員でこの仕事を経験したことがある人は少ないと思われるが、吉田のキャンパスを去って早20年以上、初めての経験である。私が就職した当時は、技術系の学生は学校推薦をもらって志望すれば、公務員などの厳格な試験があるところを除き、ほぼ希望どおりの企業に入社できたと記憶している。時代が変わり今は技術系学生であっても自由応募で学生を選ぶ会社が多い。当社の大学生・院生採用においても、事務・技術問わず全て自由応募制としており、かなり多くの学生の中から筆記試験・面接を経て選考する必要がある。また今はITやモバイルの時代であり、応募は全てインターネットHP上でエントリーしてもらい、応募者の管理も電子化され、電子メールまたは携帯電話で情報連絡をしている。それ以外の就職活動として、学校内外で開かれる就職セミナー・企業説明会も盛んであり、当社の採用担当者もこの冬の時期に各地を飛び回って企業PRに必死である。そこではあまり着慣れていないリクルートスーツを着た学生が、熱心にメモを取りながら志望企業ブースの前を取り巻いている。
 会社説明会のような場では、自分を含め当社の採用担当者または学校OB社員は、学生に自分の会社の魅力を語る必要が生じるが、ほとんどの場合、自分の経験や経歴を紹介しながら説明することが多い。そうすると不思議なことに、自分でしゃべりながらほとんど忘却の彼方へ行った昔の事柄を思い出していることに気付く。当時の楽しかったこと、苦しかったこと、充実した気持ちを感じたことなど・・・。ひとしきりしゃべった後は、採用のために仕事をしたというよりは、自分の足跡を振り返りながら、明日への活力を手に入れたような気持ちになってしまう。企業の採用活動には、人事担当者以外に多くの学校OB社員に企業説明会などで協力を願っているが、採用そのものよりも、自分に活力を与える、自分を元気にさせるという意味で、より多くの社員が採用活動・企業PRを体験するほうが良いのではないか、と強く感じている。競争社会がいっそう厳しくなっており、日常の自分の担当業務に埋没してしまい余裕が見出せない社会人が多いと思う。そのようなとき、これから社会に巣立つ学生に自分の仕事・会社の魅力を語らせる余裕を与えること、それが結構このような時代に大事なのではないだろうか。
 話は元に戻るが、今の学生はセミナーや会社説明会に積極参加し、ネットなどから膨大な就職情報を得て、検討に検討を重ねて自分の就職先を決めているような気がしている。20年以上前になるが、自分自身の就職活動時期を振り返ってみれば、就職先をいかに適当に決めたことかと思う。もちろんある程度の数の企業等を訪問し先輩社員と話したが、最終決断は「こんなところかな」という軽い気持ちで決断した覚えがある。考えてみれば、「就職」は進学、結婚と並んで人生の一大岐路であり、もし違う就職先を選べば、結婚も含めたその後の人生は大きく変わっていたことだろう。ということから、就職先選定に全精力を傾け真剣になる学生について何の疑問も持たないし当然のことと思う。その姿を見ながら、このような就職活動をほとんど経験しなかった自分としては複雑な思いであり、今の学生の真摯な姿が本来あるべき姿なのかも知れない。しかしながら自分の経験から言うと、軽い気持ちで選んだ会社とはいえ、それなりに楽しいこと、満足した気持ち、苦しいことを経験し、結構充実した会社生活をおくれているのではないかと思っている。従って今の就職先を後悔したことはあまり無い。逆に真剣に考えて考え抜いて決めた会社であった場合、ちょっとした不満が増大し、それによりひどく後悔する可能性もあり、結果として「軽い気持ち」が良かったのかも知れない。「人生の重大な岐路を結構軽い気持ちで決める」、普通に聞けば誉められる行為ではないかもしれないが、過去にあまりこだわらず将来に向けてより前向きに生きるためには、自分としてはあながち間違いで無いような気がしている。人生には判断・決断する機会が多く発生するが、決断時に深く考えすぎるよりも決めた後全力を尽くすこと、それも大事なのではと、多くの学生が就職先を決める姿を企業側の立場から見て思った次第である。  



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