会員寄稿(3)
洛友会会報 211号


ヨセミテの正月

岩田 大司(平成10年卒)

 「来年のことを言うと鬼が笑う」という諺があるが、昨年のことを言うと何がおこるのであろうか。2006年の新年号にあたり、1年前の正月の話を書くのも恐縮なのだが、私にとっては印象深い正月であった。その頃は、8ヶ月のアメリカの留学生活も終盤にさしかかり、何か記念になることをしたいと思っていた。そこで一念発起、正月休みに家族を連れて遠出の旅行を計画した。行き先は、アメリカ西海岸カリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園である。一般的に、ヨセミテ国立公園は夏が観光シーズンであるのだが、その季節は予約が一杯で宿泊料金も高い。だが、冬は夏ほど予約をとるのは難しくない。ホテル(いわゆるロッジ)だけは確保して、いざ旅立った。  通常日本からのツアー旅行であれば、移動手段もセッティングされている。ただ、それでは、あまり普段の旅行と変わらないので、移動はレンタカーで行くことにした。サンフランシスコ空港からハイウェイを経由して5時間、途中で2回休憩をいれたが、中々のペースでヨセミテの入り口まで到着した。そこで、どうして冬のヨセミテは人気が無いのか判明する。ものすごい雪である。日本の雪も結構ハードだと思うが、広島育ちの私には人生で最も激しい吹雪に遭遇したと言える。4WDの車を借りればよかったと後悔しながら、チェーンを装着。昔、出雲で訓練した成果が発揮された。
  このような状況で人はいるのかと少し疑いながら、ホテルにチェックインしたが、そこは割と繁盛しているらしい。ただ、皆の出で立ちがスキー客のように見えるのは、気にしないことにした。夕食はロッジのレストランで食べたが、山小屋にしてはおいしかった。ただ量が多いので、一人前を分け合って食べた。ここまでが大晦日であり、明日の初日の出が見られるかどうか、天気予報を気にしながら寝に入る。当然、紅白歌合戦はやっていない。まあ、時差の関係で、日本はもう“あけましておめでとう“なのだが。
 翌朝、目覚めて外にでると、雪はやんでいる。天気も良いようだ。ようやく、観光ができるかと勇んで、出かけることにする。そこで再び、なぜ冬にヨセミテに来てはいけないのか判明する。霧である。言い忘れたが、ヨセミテは壮大な巨岩や豊かな動植物が有名なのである。冬だから、木が枯れているのは仕方がないが、よく考えてみるとその巨大な岩は、全て白い霧のカーテンに隠されて見えてこない。当然、初日の出など、夢のまた夢である。なんだか、何をしにきたのか分からなくなってしまった。が、とにかくヨセミテ観光、最大の目玉ハーフドームの見える地点まで移動する。ちなみにハーフドームはヨセミテ渓谷の顔とも言える巨大な岩山であり,ドームが半分削られた形なのでこの名がある。
 やはり何も見えない。数人いるアメリカ人観光客も、あっちがハーフドームのはずなのだがと、くやしそうに霧を眺めている。果たして、霧は晴れるのか。三脚付のカメラを持っている人は、テントまで立てて長期戦の構えだ。30分程して、子供が白目になり寝かけた頃、霧が晴れだした。しかし、次の霧(もしかすると雲なのか)がまたかかりそうである。みんな我先にと、写真を取り出した。このチャンスを逃すと次にいつ顔を出すか分からない。ちなみに、ハーフドームはその形状からヒヨコにもなぞらえられるのだが、見えているのは、デコと嘴のみである。そんな出し惜しみのヒヨコも、結構待ったせいか有難いものに思えてしまう。慌てて撮ったので出来は良くないが、なんとか証拠写真は撮れたと一安心して昼食をとった。
    昼食をとって、レストランを出て驚いた。霧がすっかり晴れているではないか。そこで、ヨセミテの全容を初めて知る。周りは切り立った巨岩の壁、ところどころ流れ落ちる滝、雪化粧した森を縫う渓流、なんとも感動的な大自然のパノラマが広がっているのである。半ば諦めていただけに、巡り合った光景に思わず涙ぐむ、とは誇張がすぎるか。だが,ああ,あれがエルキャピタン(ヨセミテ渓谷に入ると最初に目につく、1095mの垂直な一枚岩)なんだねと確認できることに喜びを感じてしまったのは事実だ。ガイドブックもようやく開かれ、気持ちも盛り上がってきた。
 巨岩の景色も満喫したので、次はセコイアの森に行ってみたくなる。ここには、人が40人がかりでぐるりと囲める、屋久杉ばりの巨木グリズリー・ジャイアントや木の根元に大きな穴のあいているトンネルツリーなどを見ることができる。レンタカーがあるので、移動も簡単だと一人考えていたが、甘かった。雪のため、道路が封鎖されているのである。見ると、知らずに行って引き返すアメリカ人も多い。みんな同じ気持ちなのだろう、語らずとも連帯感が生まれている。そのせいか、お土産屋ではセコイアの木のオブジェが良く売れていた。正月なので、門松のようなセコイアがあったら買っていた気がする。
 そのようなわけで時間も過ぎ、サンフランシスコに帰る。後になって知るが、冬のヨセミテでも天気がいい時もあるらしい。また、雪の山河を見るのも醍醐味の一つであるのは、間違いないので、これも一つの良い体験であった。最後に、帰りにお土産で購入したスクリーンセーバーで見るヨセミテは大変美しかった。いつか、また行ってみたいと思う。できれば夏に・・・。



  ページ上部に戻る
211号目次に戻る



洛友会ホームページ