元気出せ日本の農業
四国支部支部長
武智 泰三(昭和40年卒)
はじめに
最近わが社では農業生産関連の研究開発にも取り組んでいるが、その事業を通してわが国の農業の抱える問題の深刻さ、わけても安全保障の問題ともいえる低い食糧自給率には改めて危機意識を持った。今すぐにも国内産地の活性化と農業の改革を加速させる必要がある。
わが国の農業の現状と課題
(1)低い食料自給率
1965年に73%であった自給率(カロリーベース)は2000年頃には40%まで低下したまま、OECD加盟国30ヶ国中28位と先進国中最低の水準である。今日世界人口が爆発的に増加する中、耕地面積は拡大していないこと、地球規模での気候変動などを考え合わせれば、日本の食糧安全保障はきわめて脆弱といわざるを得ない。
(2)担い手の減少と高齢化
農業就業人口(自営農業が主業)は10年前の410万人から330万人まで減少しており、そのうち65歳以上の割合が58%と増大している。日本の総人口比でみた高齢化率が20%であるのに比べて、農業における高齢化が極端に進んでいることがわかる。そして後継者が確保されているのはわずか7%程度である。今後認定農業者制度などにより意欲や能力のある担い手を明確化し、育成、確保していく必要がある。地方では活性化のために団塊世代のリタイヤにあわせ、Uターンによる新規農業人口増を期待する向きもあるが、趣味や健康でする農業では多くは望めない。
(3)低収益性と付加価値化の遅れ
食品産業(外食、流通、加工)ではこの30年で収益性はおよそ3倍に増加したが、農業の収益性はほぼ横ばいにとどまっている。生産サイドの変革と経営安定化がとりわけ重要であるが、支援者やマーケットサイドを含めた新たなアグリビジネスモデルの構築と農業の産業化を進める必要がある。
(4)耕作面積の減少
農家数285万戸の経営耕地面積361万ヘクタールのうち52万戸において、14万ヘクタールの耕地放棄や非農業用地への転用が進んでいる。集団営農や法人による大規模農業により農地の有効利用や生産性の向上を図る必要がある。
(5)環境保全と食の安全
豊かな自然環境や美しい景観を持った農村に対する国民の関心が高まるとともに、毎日の食卓の安全を希求する声が大きくなっている。地場産の生鮮な無、減農薬食品は消費者の間で次第に需要が増大している。地域の個性、多様性を重視して、価値観を共有する都市住民などの参画を得た持続的、循環的農業が求められている。
農業復興に向けての取り組み
政府もこのような状況に手を拱いているわけではなく、新食糧法(1995年)や食料、農業、農村基本法(1999年)により市場原理導入による農業再生に向け規制緩和がはじまっている。また、2005年には食料、農業、農村基本計画を見直し、担い手の育成、供給コスト縮減、食育の推進、新技術導入、農村における男女共同参画推進などさまざまな切り口で農政改革を進めている。食料安定供給はもちろん、国土、自然環境の保全、文化の伝承、食品産業や消費者との連携など多面的な支援策が望まれる。また近年機運の高まっている産学官連携を農業分野にもっと拡大していくことが望まれるが、そのためには農業者サイドの連携拠点をさらに充実、強化することが重要である。
地域農業の取り組み事例〜JA土佐れいほく八○(ハチマル)構想
力強い農業の復興に向けさまざまな支援、連携協力が必要であることはいうまでもないが、大事なことは農業者自ら自律的に経営感覚豊かな取り組みをしていくことである。ここでは、地域循環型社会の構築をめざし積極的な取り組みを行っている高知県JA土佐れいほくの事例を紹介しておく。
(1)JA土佐れいほくの現状
5町村からなる農業協同組合で管内農業従事者数は15,200人、過去5年間で約一割の人口減少となり、農業就業者の平均年齢は65.4歳と高く過疎化、高齢化が否応なく進行している。標高200〜1800メートル、農用地率1.8%の典型的山間地域である。米、野菜、花卉花木、畜産等の農業生産販売額は年間約16億円である。
(2)れいほく八○構想
高齢化により農産物の消毒作業が困難になったことを逆手に取り、減農薬栽培や環境保全の取り組みを拡げようとの思いから、環境をテーマに資源循環や環境保全をめざす農業に取り組む地域宣言を2001年に行った。減農薬栽培の主要野菜8品目をれいほく八菜と名付けブランド化したのを皮切りに、その他の農産品全体を八○構想として、れいほくを丸ごとブランド化する作戦に出た。
(3)れいほく八菜の取り組み
2002年に園芸部ISO部会(205名で組織)が国際環境認証ISO14001を取得するとともに同年、第8回環境保全型農業推進コンクール大賞を、2006年には第35回日本農業賞大賞を受賞し、売り上げも3億円と着実に成果を上げてきた。
高知県では環境ISO実践農家グループ18部会、参加農家618戸と組織拡大を進めてきているが、その中でも200名を越えるJA土佐れいほく園芸部ISO部会は自ら考え、行動する農家として活躍する先駆的リーダーである。
おわりに
エネルギーの安全保障と並んで、食糧の安全保障は等しく日本国民の問題である。 「元気出せ日本の農業」の掛け声の下、生産者、流通加工業者、消費者は共通の認識に立ち、一致協力して取り組む一方、国は国民のレベルに立って強力な支援を熱心に進めることができれば、もうひとつの豊かな国、農業大国日本の復興も夢ではない。
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