カンボジアでの生活
辻 直一 (昭61年卒・中国支部)
卒業して20年以上中国電力に勤務してきましたが、2006年9月から1年ほど国際協力機構(JICA)の専門家としてカンボジアに派遣されましたので、今回そのお話を紹介したいと思います。
皆さんご存知のこととは思いますがカンボジアは1970年代に始まる20年におよぶ内戦がありました。その後1991年のカンボジア和平パリ協定により平和を取り戻し、現在、復興への道を歩んでいます。しかし、20年もの内戦で国は荒れ果て、多くの知識・人材も失われて、復興は容易ではありません。金も物も人もいない中での復興です。そのような状況の復興ですから多くの国の援助が必要で、実際に多数の国がいろいろな分野で援助を行っています。日本はその中でも最大の援助国です。
私の出向先のJICAは発展途上国を援助する独立行政法人で、JICAからカンボジア電力庁に専門家として派遣されました。肩書きが実際に「専門家(英語では「エキスパート:Expert」)」で、支援する分野についての知識・技能が豊富で、派遣先機関に何か具体的な物を作りながら技術移転をするのが仕事です(物を造って渡すのが目的でなく、物造りを通じて派遣先機関に技術を移転するのが目的です)。外国人が相手ですから語学力とコミュニケーション能力が必要で、専門分野の知識・技能を加味したうえで選定されます。
一方、私の任務は電力設備の技術基準細則の作成です。電力設備の技術基準細則とは電気を発電してからお客様に送るための電力設備(発電設備・送変電設備・配電設備等)に関する基準で、日本では「電気設備技術基準の解釈」がこれに当たります。これを派遣先機関であるカンボジア電力庁のスタッフと作ります。この技術基準細則作成プロジェクトは3年のプロジェクトで、前任者が2年で細則案を作成し、私が最後の1年で仕上げて、大臣のサインを得て法律となりました。
さて、これからカンボジアでの私の生活を紹介します。私はカンボジアの首都プノンペンで1年間生活しましたが、やはり一番大事なのは健康と安全です。日本でも同じことでしょうが、生活面に不安が無くて初めて安心してプロジェクトに専念できます。健康のためにはなま物・なま水を避けるとか、規則正しい生活を送るとかです。運動不足解消も図ってみましたが、結局長続きせずこれは守れませんでした。安全については深夜に出歩かないとか、危険なエリアにはいかないとかです。カンボジアは近年治安が良くなったといっても、日本と比べるとまだまだ危険です。また、昼は大丈夫でも夜は危険な場所もあります。とは言うものの、通常の注意さえ払えば普通に暮らせて何の問題も無い都市です。
このような事情から、プノンペンではメイドと運転手を雇っていました。メイドと運転手を雇うと聞くと贅沢な暮らしをしていたと思うかも知れませんが、人件費が安いので金銭的な負担はあまりありません。私のように自分で料理ができない人間はメイドか外食かしかありませんし、公共の交通機関のないプノンペンでは運転手が必要です。おかげさまで、病気や怪我もなく、無事に任務を終え、帰任することができました。
また、事務所では秘書を雇っていました。事務所といっても派遣先機関の1部屋をあてがってもらっているだけで、普段は彼女と2人です。秘書としての業務も重要ですが、私にとっては現地人とのコミュニケーションに欠かせませんでした。私の相手は英語が話せる人ばかりでないし、カンボジアの文化や風習を学ぶのには持って来いでした。教えてもらわなければ分からないことは多数あり、いろいろとカンボジアについて教えてもらいました。
一方勤務の方に話を移すと、月曜日から金曜日が勤務日で、午前7時30分から午後5時30分が勤務時間で、昼休みは正午から午後2時です。私は昼休みを1時間で切り上げて、午後6時か7時ぐらいまで勤務していました。また、休日もほとんど仕事で、そのため忙しい毎日でした。現地では私が計画を立て、具体的に誰が何をいつまでにするのかを示さないと現地の人は動きません。自分たちで考えて進めていくことを現地の人に期待できるほど育っていません。スケジュール管理も甘いため、しばしば進捗を聞取り把握しておく必要があります。また、考え方・仕事の進め方も日本と違い、それらによる誤解や苦労もありました。
このように書くと悪いことだらけで面白くなかったように見えるかもしれませんが、このような状況の中で自分で考えて、現地の人を巻き込みながら進めていくのは楽しいものでした。苦労といえば苦労ですが、何かをするたびに新しい発見があり、新しい経験があり、すべてが新鮮です。それらは日本や会社では経験できないことばかりで貴重な体験です。そして、自分のしていることがカンボジアの役に立ち、喜ばれるのはうれしいものです。皆さんも機会があれば是非JICA専門家に応募することをお勧めします。
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