電験参考書に関わって
伊佐治 圭介(平9年卒・中部支部)
一年程前、ある方の紹介で電験三種の参考書を作るお手伝いをさせていただくことになりました。電気機器に関する初歩的な内容ですが、仕事で実際に携わっている分野ではなかったため、お断りしようかと思っていました。しかし、考えてみると普通に会社生活を送っていると、こんな機会は二度とないかもしれない、そう思って取り組んでみることにしました。
自分でも会社に入ってすぐに受験した経験があるので、どのような内容かは理解していたのですが、重要な項目に絞って勉強していたので全てを把握できている訳ではありません。実際に過去の問題を一通り解いてみて、出題傾向を把握することから始める必要がありました。学生のころの教科書やノートを引っ張り出してきて、変圧器、誘導機、直流機、同期機など、機器の動作原理や運転特性などを確認しながら、必要な知識や公式をまとめていき、出題者が求めている知識や計算能力のレベルを把握していきます。大学で電気を専門に勉強した人ならそれほど難しい内容ではないものの、独学で初めて取り組もうとする受験生にとって電気機器は取り付きにくい問題が多いように思います。今回参加させていただいた参考書のコンセプトが、電験三種の受験だけではなく更に上級の技術者を目指すよう、基礎的な理論をしっかりと記述し、図を使って物理的意味を理解しやすいように工夫するというものでした。この資格の受験者数は毎年5万人を超えており、高校生から社会人まで幅広い層にわたっています。電気理論を理解するために必要な数学的知識を既知のものとして扱うことはできないため、どのような概念が理解しにくく、どのような点でつまずくかを想定しながら解説を書いていく所に難しさがありました。
社会人になってから業務に関連する資格ということで改めて勉強する人も少なくないようですが、本資格の対象範囲は電気・電子理論から発変電所・送配電線路の設計・運用、電気法規まで非常に多岐にわたり、限られた勉強時間の中で広範な知識習得が求められることになります。しかし、電気を扱う仕事に携わる技術者として最低限知っておいて欲しいという内容が多く含まれています。業務効率化のためマニュアル化されたり、過去の事例を参照したりして進める仕事も多いですが、業務を更に掘り下げて、自分の力で新しい手法などを考えていくためにも基本的な知識は大切になります。これから電気の技術者を目指そうとする方々の支えとなるよう、より分かりやすく説明していくことを心がけたいと思います。
電気機器を人に教える機会を得て改めて感じたのは、基礎的な理論や知識を机上で勉強して理解することは大切ですが、実際に機器を触って構造を見たり、特性を測定したりする経験がなければ本当の理解は得られないということです。かつて大学で体験した学生実験は、装置を組み立て、特性を測定するといった基本的な内容でしたが、物理現象の観察により教科書を読むだけでは分からない感覚的な理解を得るとともに、様々な分野に対する興味を広げるという点でも非常に重要なものです。
近年、電気工学を専門とする学生数が減少していることや、電気主任技術者の資格取得者数が減少していることなどもあって、国の審議会の中でも電気主任技術者資格要件検討WGが開かれ、今後必要とされる電気主任技術者の確保に向けての検討が行われています。この中で大学での実験の意義などについても話題にあがっているようです。また、電気工学の研究・教育を支援するために産学連携のパワーアカデミーが創設されています。これらの活動を通じて、電気工学技術の将来に対して学生が興味を持ち、電気技術者のレベル向上が進んでいくことを期待したいと思います。
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