電気系教室懇話会報告
平成20年度の懇話会は、11月14日(金)に吉田キャンパスにおいて開催されました。第一部の講演会は、川上電子工学専攻長の司会で、14時から17時30分まで電気総合館大講義室にて行いました。講演会には名誉教授の木村磐根先生、西川示韋一先生、深尾昌一郎先生にお越し頂き、参加者は卒業生も含めて約120名でした。
学科長挨拶に続いて最初に、松波弘之先生(昭和37年卒、京都大学名誉教授、科学技術振興機構 JSTイノベーションプラザ京都館長)に「パワー半導体 SiC にかける夢」という題でご講演を賜りました。新しい産業を育成するという科学技術振興機構における現在のお仕事のご紹介の後、ご研究の半生を振り返る貴重なお話を伺うことができました。さらに、電気エネルギー利用の際の電力変換に用いられているシリコンデバイスの性能が物性限界にあり、これを桁違いに越えるSiCパワーデバイスの実用化近づいており、エネルギーの有効利用、ひいては、環境負荷低減に有用であることなど、将来に夢を託す技術として発展している現状を解説いただきました。企業への就職を考えておられたのが、急遽大学に残られることになり、研究室の半導体研究をテーマ設定から予算獲得に至るまで一任されて、とまどいながらスタートされたことなど、新しい分野の開拓者ならではのご苦労が偲ばれるお話がありました。その後、ライフワークとなったSiC研究においても、最初に目指されたのは青色発光素子であったことや、獲得された予算の制約上、高温特性のみが表に出たりしたことなど、多くの紆余曲折があったことをご紹介頂きました。特に、学生の失敗から生まれた、傾いた面方位基板上への均質結晶成長法のお話は「偶然は、準備された精神にしかほほえまない」の言葉通りと感銘を受けました。
続いて、宮本 順一様(昭和48年卒、東芝メモリシステムズ 常務取締役)より「開発サイドから観るフラッシュメモリビジネス」という題でご講演頂きました。宮本様ご自身は「松波先生のお話には全く出てこなかったお金の話ばかり」と謙遜して前置きされましたが、熾烈な価格競争を支えた豊富なアイディアと極めて多くの分野にまたがる徹底した技術開発など、世界市場で競争力を誇る東芝の技術の真髄を見せて頂いた想いです。HDDを固体メモリSSDで置き換えることを目指して、NAND型フラッシュメモリの開発を決断されたばかりの1988年にGMR効果(2007年ノーベル物理学賞)が発見され、HDDの価格が急落を始めて思惑が狂ったこと、逆にデジカメや携帯電話の高機能化など思わぬ追い風があったことなど、市場に直結する製品開発の難しさを痛感するお話でした。また、最大のライバルであった三星との提携など、企業の経営戦略についてもその舞台裏を垣間見させて頂きました。
最後に、福永 泰様(昭和48年卒、日立製作所 技師長)より「知的創造社会実現を目指した uVALUE 活動 ―実業とITの融合を求めて―」という題でご講演頂きました。現在中心的に関わっておいでのuVALUE活動は、「実業×IT」をキーワードに、価値を顧客と協創することを目指す活動とのことで、その実際についてさまざまな実例に即してご紹介頂きました。発電所の原子炉制御では、60年間の寿命を維持するため、制御系や配管などを常に更新し続ける必要があり、RFID「ミューチップ」をすべての結線に取り付けて管理を行うなど、IT技術がいかに実業に利用されているかをご説明頂きました。鉄道に関しては「緑の窓口」のオンラインシステム開発について、国鉄職員が日立に出向し、机を並べて開発された当時の貴重な歴史を伺い、大規模システム開発の核は人間関係にあることを改めて感じました。最近の事例では、名札型のセンサネットを活用しコミュニケーションを可視化する「ビジネス顕微鏡」のお話など、IT技術のこれからの動向を示して頂きました。なお、研究所のサーバーとつないで、リアルタイムの音声合成でご講演頂くことをご準備頂きながら、講義室の通信環境不備で実現できなかったことを改めてお詫び致します。
第二部の懇親会は、吉田南キャンパス(旧教養部)の吉田食堂1階に移動し、萩原電気工学専攻長の司会により18時から19時半まで行いました。参加者は、学生実験終了後参加した教員・学生を加えて約140名と盛況でした。木村磐根先生(昭和30年卒、名誉教授、洛友会代表幹事)のご挨拶と乾杯のご発声に続き、3名のご講演者やご参加頂いた名誉教授、OBの方々と教職員、学生の間で大いに議論が盛り上がりました。
最後になりましたが、たいへんご多忙なスケジュールの中、ご講演を快くお引き受けいただいた講師の先生方をはじめ、遠方よりご参加下さった卒業生の皆様、ご参加頂いた教職員、院生・学部生の皆様に厚く御礼申し上げます。また、共催頂いた洛友会には、経費支援の他、名誉教授の先生・卒業生の皆様へのご連絡等多大なサポートをいただきました。これからも卒業生と教室の交流の機会として懇話会を利用していただければ幸いです。
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