真に豊かな地域をつくる
東北支部長
井上 茂(昭48年卒)
〇はじめに
「地域の時代」の到来といわれる。「地域」という言葉は、都道府県から市町村、さらに集落まで幅広く使われている。地域への関心の高まりの理由の一つは、地方分権の流れである。地方分権により地域が独自の施策を行える一方で、各地域が施策を競う時代が来ることになる。私はエネルギー産業に従事する者だが、青森県に住み六年になる。青森県は経済データの多くが低迷する県であるが、暮らしているとデータからは見えてこない豊かさを感じる。他にも同様の地域は多いと思う。私が住む青森県を一例に、真に豊かな地域づくりについて考えてみた。
〇青森県の豊かさ
よそから来た人の方がその土地のよさに気付くことがある。青森県への転勤者は、豊かで住みよいと言う人が多い。
四季の違いがハッキリした気候は、メリハリがあり気持ちがよい。そして、四季折々に変化する八甲田、白神などの山々は昔と変わらず美しい。森や海からくる風は爽快である。雪は、森林、耕地そして海を潤わせ、美味しい水道水にもなる。日本の食糧自給率は39%だが、青森県は118%である。100%を超えるのは五県しかない。安全、安心で、美味しく、新鮮で、安い食材に恵まれている。農業は、日本海側と太平洋側で気象条件が異なることから、米、野菜、果実、畜産の割合がバランスのよい生産構成となっている。三方が海の全国有数の水産県で、魚の種類も多い。全国三位の数を誇る温泉は県内各所にある。ねぶたをはじめ、お祭りに桁外れの情熱を注ぐ。民俗芸能は各地に残る。情の深い東北のなかでも特に人情味がある県民性である。そして、忘れてならないのがエネルギーで、原子力発電所、ウラン濃縮工場、再処理工場、核融合関連施設など各種の原子力産業の立地、あるいは今後の計画がある。これら施設は科学技術の粋を結集している。
このように豊かな青森県だが、県民所得を見てみると、内閣府が発表した都道府県の一人当たり所得は、1位の東京が482万円に対し、青森県は37位244万円となっている。これは再処理工場の試運転開始により前年の45位から順位が上がった結果である。主要産業の農林水産業は、生産性や所得率が低く、天候にも左右され安定した収入を得にくい。土木建築業も、公共事業に期待できず低迷している。有効求人倍率も低く、県内で働きたくても仕事を得られない。
生業(なりわい)が備われば、真に豊かな地域につながっていくのではないだろうか。
〇真に豊かな地域をつくる取組み
生業を確保するには、企業誘致や地域産業の育成などが肝要である。企業誘致に関しては、どこの地域でも、税制、補助などの優遇策や、人材、環境、交通インフラなど地域の持つ強みを売りにした誘致活動を行っている。青森県では、原子力関連交付金や、粘り強さに定評のある「人」を売りとしている。しかし、製造業が生産コストの安い海外に生産拠点を移すなか、誘致が多くは進んでいないのが現状である。また、進出した企業も、派遣切りやリストラに見られるように、景気の影響を受けやすく不安定な陰を見せている。
誘致企業だけに頼れないとなると、他力本願でなく地域産業の育成振興に取り組む必要がある。地域の資源を活かした新事業の創出、ベンチャー企業の育成、既存産業の振興など、地域おこしの名の下にさまざまな取組みが行われている。青森県では、県産農水産物をそのまま売るのではなく、製造・加工・販売まで県内で行う、一,二,三次産業が連携した「食産業」を提唱している。また、現状は県外の手に頼るエネルギー施設のメンテナンス産業を、県内に育成しようとしている。また、市町村レベルでは、大分県の「一村一品運動」のように地域ブランドの創出に取組み、津軽塗り、大間マグロ、ねぶた祭りなどが全国的なブランドとなっている。
しかし、地域おこしへの期待が大きい一方で、もの余り、飽食の時代に、売れるものをつくることは簡単ではない。都会と地方との所得格差がなかなか縮まらないのが現実である。
では、地域おこしをさらに発展させるにはどうすればよいのか。感じていることを述べてみたい。
まず、先人達が時間をかけ青森りんごのブランドを確立したように、地域産業を定着させるには長期的な視点が必要ではないか。地元で売れ地元が誇るものでなければ、よその人によさを伝えられないのではないか。似たものをつくっていては生き残りは難しく、よそとの差別化が肝要ではないか。小規模でもよいから工場や工事業などを積み上げ、地域の技術基盤を高めて行くことが工業の振興に有効ではないか。そして、人づくりも重要である。子供の頃からの教育を充実させ、若くて情熱を持つ地域おこしのリーダー、さらには起業家を育成することが肝心ではないか。
真に豊かな地域をつくる取組みについての私見を述べてみたが、消費地に住む方々には、各地にあるいろいろな地域産品を買うなど、地域おこし・地域振興の後押しをしていただければと思う。
〇おわりに
今年は、太宰治の生誕百年に当たる。津軽の大地主の子として生まれ、旧制青森中、旧制弘前高で学生時代を過ごし、青森県内にはゆかりの地も多い。多くの文学者が色あせるなか、読まれ続けられているのは、時代を越えて心を打つものがあるからだろう。生まれ育った津軽の地にその理由があるような気がする。様々な催しもあり、興味ある方のお越しをお待ちしている。
|